救助を手伝ってくれたあなたへ
救命処置を施すことで、その方が救命される確率が上がります。あなたが手を差し伸べたことで、救命の連鎖をつなげることができました。結果に関わらず、救命処置をしていただいたこと、手を差し伸べていただいたことは誇らしく、素晴らしいことです。
私たちはあなたのその行動を尊敬し、肯定します。あなたの行動は間違っていません。
救命処置実施者の
心理的ストレス
心臓突然死は本邦において年間8万件以上が発生しています。一般市民による目撃のある心停止はおよそ年間26500件で、そのうち半数以上で一般市民の皆さまによる救命処置が実施されています。他者の生死に大きく関わることとなる心停止に対する救命処置は、災害時などと同様に救助者に強いストレスがかかることがあり、救助に関わった人がなんらかの精神的不調を訴えたという報告もあります。救命講習会において救助者のストレスに対するカリキュラムは含まれていることは少なく、また自治体よって消防などが救助者の相談窓口をたててはいるものの、心理的なサポート体制についての整備はまだ不十分です。
そこでNPO法人ちば救命・AED普及研究会(千葉PUSH)では、救命処置実施者(バイスタンダー)に起こりうる心理的ストレスとその対処についての啓発資料を作成しました。
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本資料を広く公開することで、救命処置に安心して参加できる体制を構築し救命される命が増えることを目指しています。
救命処置に関わる上で知っておいてほしいこと
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現場にあなたしかいなくても、119番通報をすることで、通信指令員が現場に応じてなにをすればいいか適切な指示をしてくれます。スマートフォンをスピーカーモードにすれば会話をしながら両手を使って救命処置をすることができます。
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AEDを早くつかっても電気ショックが適応外のこともあります。電気ショックが不要という判断ができるという点でAEDは有用です。
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胸骨圧迫を続けていると、肋骨が折れるなどの合併症が起こることがあります。しかし、骨は後ほど病院で治療できても、命を救うことはその場でしかできないことです。胸骨圧迫を続けるメリットは、デメリットを大きく上回ります。
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しかし、どんなにベストの救命処置をしても助からない人もいます。それは心停止の根本的な原因や救命処置を開始するまでの時間によることが多いです
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救命処置の場面に遭遇すると、どんなに正しいことだとしても、自分のせいでうまくいかなかった、もっとこうすればよかった、などの不安、自責の気持ちなどの精神的ストレスがでることがあります。
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その気持ちがでることは当たり前のことです。あなただけではありません。そんなときは、このリーフレットを参考に、助けをもとめてください
意外と知らないこと
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救命処置を受けた人は、その間の記憶はないことがほとんどです。
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救急隊が来たら、現場でどのような救命処置を実施したのか聞かれます。病院での治療につなぐために大事な情報です。お伝えいただけたらと思います。
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救命処置に関わると、消防から感謝の意を示すカードを渡される場合があります。ただし、傷病者の処置を優先した結果、渡すタイミングがなくなる場合や、そもそもその仕組みがない自治体もあります。
どんな症状のとき?
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救命処置に関わった後に、以下のような症状があるときは、精神的ストレスがあると考えられます。ご自身に自覚がなくてもストレスを抱えていることがあります。
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倒れた人を目の当たりにした後の気持ちには、正しいとか間違っているということはありません。あなたが抱く感情、症状には次のようなものがあります。
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これらが2週間以上続く、日常生活(仕事や学校)に支障をきたすようであれば、次の解決策を試してみてください。
自分でできる解決策
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友人や家族に相談する
友人や家族に今の気持ちを話してみましょう。信頼できる人に気持ちを伝え、自分だけで抱え込まないようにしましょう -
外出する
外出したり、散歩に出かけたり、友人と会ったりすることは、精神的な健康の助けになります。自分が楽しい思うことを考え、実行してみましょう。 -
学校、職場に休暇をもらえるよう頼んでみる。
学校、職場に利用できるカウンセリング・サービスがあるか相談してみましょう。 -
同じような体験をした人の話を聞いてみる
救助者となったのはあなただけではありません。多くの救助経験者がいます。そのような人と話をするのも有効です。 -
マインドフルネスを試す。
マインドフルネスとは、過去や未来のことを考えるのではなく、今この瞬間に集中することです。自分の考えや感情、体の感じ方、周りで起きていることに意識を向けることです。 -
その他の方法として専門家に相談する、アドバイスを聞くという方法もあります
結果がどうであっても、多くの人はあなたが人命救助に踏み切ったことを賞賛し、その行動を起こしてくれてよかったと思ってくれるでしょう。そして、あなた自身も勇気ある自分を認めてくださると嬉しく思います。
この文章は、そんなあなたに、また救命処置について学んでくれたあなたに、寄り添うために作られました。あなただけではなく、あなたの周りで、サポートが必要な人がいたときにも、このリーフレットを活用してください。あなたは1人ではありません。たくさんの仲間がいます。
救命処置の現場に遭遇したときに、このリーフレットのことを思い出していただけましたら幸いです。
本冊子は令和6年度キリン・福祉のちから開拓事業より助成をいただいたプロジェクト「救命処置実施者の心理的ストレスに対する啓発資料の制作」の一環として制作しております。